日本民間放送労働組合連合会 女性協議会
はじめに
民放労連では、2017年度から民放各社の意思決定層における女性割合を継続的に調査しており、今回が7回目となります。また、民放連・新聞協会への申し入れや厚生労働省での記者会見、署名活動などを通じて、女性割合30%の早期達成と、偏った意思決定体制がリスクを高めることを訴えてきました。
2024年末以降のフジテレビ事案では、性暴力・セクハラ問題の放置・隠蔽に象徴されるガバナンス不全と、それに伴う経営・信頼の失墜が明らかとなりました。その背景には、民放労連が以前から警鐘を鳴らしていた意思決定層の同質性があったといえます。フジテレビは2025年6月に経営層を刷新し、リスク管理・コンプライアンス・人権尊重の体制強化に加え、意思決定層の女性割合3割以上を規定に明記し実現しました。
この事案は、閉鎖的な組織文化(いわゆるオールドボーイズクラブ)が社員の権利保護やリスク管理を損なう可能性があることを示しました。企業は危機顕在化前に体制を整備し、多様な意思決定体制を構築することが重要です。今後、民間放送業界で同様の問題を再発させないためにも、女性登用の推進やリスク管理・コンプライアンス・人権尊重の強化が求められます。民放労連は、これらの取り組みを後押しするため、引き続き調査と提言を進めていく方針です。
※民放労連によるメディアで意思決定層の女性割合を3割以上にすることを求める活動
2021年2月 厚労省での記者会見
https://www.minpororen.jp/?p=1749
2025年3月 フジテレビ問題を受けた署名活動、キイ局5社、民放連、新聞協会に署名手交 https://www.minpororen.jp/?p=2898
https://www.change.org/women30formedia
そのほか、年2回民放連に、年1回総務省に、各種要請の申し入れをしています。
主な調査結果
▶️フジテレビ、FMHで女性役員3割超! (2025年夏)
フジテレビ及びFMHでは、「フジテレビ問題」のあとに、取締役会規定で原則として取締役の女性の比率が30%以上となるように取締役候補者を選定することを定め、2025年夏の株主総会で女性役員が3割以上を実現した。「フジテレビ問題」を踏まえ、意思決定者の同質性のリスクを軽減するための取り組みと見られる。規定に明記することで持続性を担保した。その他のキイ局では依然として3割を下回っている。
今回を含め7回の調査で、キイ局における女性役員割合は徐々に上昇してきた。在京キイ局のテレビ社では、役員98名中女性は20名(20.4%)、ホールディングスの役員66名中女性は16名(24.2%)となっている。政府が掲げる3割に届いているのは1社のみであり、本来50%を目指すべきであるので、キイ局全体での女性登用は依然として課題があると言える。
▶️女性役員不在が多数 全国テレビ局の62.2%・ラジオ局の69.4%でゼロ(2024年度)
2024年度時点で、全国のテレビ局の約6割(62.2%)、ラジオ局の約7割(69.4%)において、女性役員が1人もいない状況が確認された。
女性役員の全国平均割合は、テレビ局3.6%、ラジオ局4.0%と、引き続き極めて低い水準にある。
▶️キイ局賃金格差 女性の給与は男性の8割(2024年度)
2024年度の調査によると、キイ局における女性正社員の給与は男性の約8割にとどまっている。キイ局の正社員人事制度自体には男女差はなく、2024年に改正された育児・介護休業法により、妊娠・出産や育児休業を理由とする不利益取扱いは法的に禁止されている。
一方で、民放労連は、昇進や評価において男女間で差が生じている可能性があると推測しており、給与格差の背景には制度以外の要因が影響していることが示唆される。
▶️キイ局では徐々に女性登用が進展するも、コンテンツ制作部門の意思決定層は、女性21.7%(2024年度)
2024年度時点の調査によると、キイ局のコンテンツ制作部門における意思決定層(報道、制作、情報制作、スポーツ、編成の局長相当)の総数23名のうち、女性は5名であり、女性割合は21.7%であった。
キイ局が制作する全国ネット番組は、地域系列局を通じて全国に放送されており、コンテンツが視聴者に与える影響は大きい。そのため、制作部門の責任者における男女比は、組織の意思決定やコンテンツ内容の多様性に直結する重要な指標である。 現状の21.7%では目標とされる30%を下回っており、理想的には50%程度の女性登用が望ましいと考えられる。
メディアにおける女性登用の必要性
■意思決定の偏りによる企業リスク
意思決定層の偏りは、いわゆる「同質性のリスク」として指摘されている。具体的には、意思決定の偏向、イノベーションの停滞、集団浅慮(groupthink)、組織の適応力低下が生じやすく、これにより重大な意思決定ミスや不祥事が発生する可能性がある。
■メディア企業のジェンダー不平等と情報受け手への影響
2020年に閣議決定された男女共同参画基本計画第10分野では、「メディア等からの情報が子供をはじめ様々な世代に対して固定的な性別役割分担意識等を植え付けず、また、押し付けないようなものとなるためには、メディア分野の経営層や管理職において性別による偏りがないことが重要である。このため、メディア分野等における意思決定過程への女性の参画拡大を促進する。」という記載がある(内閣府, 2020)。また、ハラスメントやコンプライアンスに関する社内方針や文化も、メディアコンテンツを通じて視聴者に影響を与える可能性がある。
■放送産業のイノベーション促進における多様性の重要性
経済産業省は、女性登用を含む「ダイバーシティ経営」を、自由な発想の創出、生産性向上、自社の競争力強化につながる経営手法として位置付けている(経産省, 2021)。さらに、ダイバーシティ経営を実施している企業は、そうでない企業と比較して経営成果が良好であることが示されている。また、放送の受け手の半数が女性であることを踏まえると、女性の意思決定層への登用は、民放をはじめとする放送産業におけるイノベーション促進および経営課題の解決に寄与する可能性が高い。
提言:数値目標設定と具体的な計画立案の必要性
今回の調査では、キイ局において女性役員割合に改善がみられた。それは大きく評価できるものだ。しかし、全国的な進展は遅れている。令和のこの時代に、全国の民放テレビ局の62.2%、民放ラジオ局の69.4%で女性役員が一人もいないのである。この状況下では、政府が定める指導的地位に占める女性の30%達成は非常に困難であると考えられる。
これを踏まえ、民放連および各民放企業は、現状調査と原因分析を実施し、数値目標の明確化および具体的な計画を策定し発表すること、確実な実行を行うことが必要である。放送局のサービス提供先である視聴者・聴取者の半分は女性である。放送局の意思決定層への女性登用は、業界のイノベーション促進やリスク管理の向上にも寄与する。
女性役員・管理職割合の長期的変化

調査詳細
■調査概要
・調査の目的
全国・在京・在阪の民放テレビ局の社員および意思決定層の女性比率を調査し、男女比という点でダイバーシティの実現度を明らかにする。
・調査対象
全国の民放テレビ局127社 民放ラジオ局98社(テレビ放送兼営31社、ラジオ単営67社) 民放連の役員
・調査期間
2024年 4 月~ 2025年 3 月の任意の時点
2025年7月1日時点(キイ局、ホールディングス社の役員のみ)
・調査方法
民放労連が独自に調査した。一部発表があるものについては、各社のHPで発表されている人的資本開示、行動計画、厚労省の「女性の活躍推進企業データベース」、就職情報サイトのデータを参照した。
■調査項目
- 【速報】2025年夏発表の在京民放テレビ局役員およびホールディングス役員女性割合
- 2024年度 在京・在阪の民放テレビ局女性割合
- 2024年度 在京・在阪の民放ラジオ局女性割合
- 2024年度 全国の民放テレビ局の女性役員割合
- 2024年度 全国の民放ラジオ局の女性役員割合
- 日本民間放送連盟の女性役員割合
■(参考)過去の調査データ
2018年4月発表 在京テレビ局調査
2020年3月発表 在京・在阪テレビ局調査
2021年5月発表 全国テレビ調査
2021年7月発表 全国ラジオ調査
2022年7月発表 全国テレビ・ラジオ調査
2023年11月発表 全国テレビ・ラジオ調査 リリース版
1. 2025年夏発表の在京民放テレビ局役員およびホールディングス役員女性割合
2025年夏に発表された在京キイ局テレビ社・在京キイ局ホールディングス社の役員人事は、全局で女性役員が任命された。
【在京テレビ局の女性役員数(2025年7月1日時点)】

【在京テレビ局ホールディングスの女性役員数(2025年7月1日時点)】

※「役員」に監査役は含めた。顧問、執行役員、補欠監査は含めていない。
2.2024年度 在京・在阪の民放テレビ局女性割合
在京、在阪の民放テレビ局に関して、社員、役員、局長、管理職、新卒採用の女性割合、男女間賃金格差を調査した。また、コンテンツ制作部門の社員女性割合と局長(または室長などセクションでの最高責任者、原則1名)の意思決定者の性別を調査した。調査したコンテンツ制作部門は、報道部門、制作部門、情報制作部門、スポーツ部門。編成テーブルを作成する部門として、在京のみ編成部門の調査を加えた。
【在京テレビ局女性割合】

(参考 2022年度調査結果)

【主な調査結果】
◆ 全国放送コンテンツ制作の影響の大きさを踏まえ、在京キイ局5社の平均値で分析。
◆ 在京キイ局の平均女性割合
社員:27.6%(日本テレビを除く4局平均) 役員:14.6% 局長:15.0% 管理職:19.1%
◆ コンテンツ制作・編成部門
社員:18.3% 局長(相当):21.7%(23ポスト中女性5名)
◆ 男女間賃金格差(正規雇用)
- キイ局5社平均:82.2%(男性100%に対する女性比率)
- 前回調査:82.1%(ほぼ変化なし)
- キイ局正社員の人事制度自体には男女差はなく、育児・介護休業法(2024年改正)で妊娠・出産・育児休業による不利益取扱いは禁止されている。
- 民放労連は、昇進・評価で男女差が生じている可能性を指摘しており、賃金格差には制度以外の要因が影響していると考えられる。
- 参考:一般労働者の男女間賃金格差(厚労省「令和5年版働く女性の実情」):74.8%
◆ 新卒採用における女性割合:47.2%と高水準
◆ コンテンツ部門の責任者における女性割合
- 報道局長:5名中3名が女性
- TBSではコンテンツ3部門で女性局長
- 日本テレビとテレビ朝日では全体で女性局長ゼロ
◆ コンテンツ制作部門の社員女性割合
- 全体:約2割
- スポーツ部門:平均13.1%と特に低い
- 東京MX、NHK(全国)のデータも参考として掲載した。
【在阪テレビ局女性割合】

(参考 2022年度調査結果)

【主な調査結果】
・社員女性割合は平均24.2%だが、新卒採用は平均41.0%と4割を超えている。
・女性役員について、1局(毎日放送)で0名。
・局長女性割合10.5%、管理職女性割合15.1%と、3割に届いていない。
・コンテンツ制作部門の調査では、前回に続き全局で全局で女性局長ゼロだった。
・コンテンツ制作部門の社員女性割合は、2割程度と低い。
・男女間賃金格差について、平均74.6%という結果だった。うち、正規雇用労働者は平均79.1%非正規雇用労働者が53.1%だった。
※以下に、本データに関する補足事項を示す。
・「役員」に監査役は含む、顧問、執行役員は含めなかった。
・「局長」には、会社の直下にある室長、事務局長、部長は含めなかった。
・コンテンツ制作・編成部門の社員数については、主に現場で制作する部署を調査対象とし、管理部門を除いた。兼務者、嘱託社員も含めた。
・コンテンツ制作・編成部門の「局長」は、局長または室長などセクションでの最高責任者、原則1名の意思決定者の性別を調査した。
3. 2024年度 在京・在阪の民放ラジオ局女性割合
【在京の民放ラジオ局女性割合】

【在阪の民放ラジオ局女性割合】

■主な調査結果
・在京局(7社)中 女性役員ゼロは5社、女性ライン管理職ゼロは3社だった。
・在阪局(5社)中 女性役員ゼロは3社、女性ライン管理職ゼロは1社だった。
これは、昨年の調査と全く同じ結果。
■データについての注釈
・「ライン管理職」は局長と部長と支社長。出向先は除いた。
4. 2024年度 全国の民放テレビ局の女性役員割合
【全国の民放テレビ局127社の女性役員割合】


■主な調査結果
・127社の役員総数 1708名 女性役員総数 62名(前回比+5) 女性役員割合の平均 3.3% (前回3.0%)
・女性会長1社(岐阜放送) 女性社長4社(テレビ岩手、新潟テレビ21、MXテレビ、長崎文化放送)
・女性役員数(127社中)
0名 79社(全体の62.2%)前回-2社
1名 39社 前回+0社
2名 6社 前回+1社
3名 2社 前回+2社
4名 0社 前回-2社
5名以上 1社 前回+1社
■データについての注釈
・「役員」に監査役は含む、顧問、執行役員は含めなかった。
5. 2024年度 全国の民放ラジオ局の女性役員割合
【全国の民放ラジオ局98社の女性役員割合】


■主な調査結果
・98社の役員総数 1029名 女性役員総数 41名(昨年比+8) 女性役員割合の平均 4.0%
・女性会長 2社(岐阜放送、広島エフエム)、女性社長 1社(ニッポン放送)
女性役員数(98社中)
0名 68社(全体の69.4%) 前回-3社
1名 20社 前回-1社
2名 9社 前回+3社
3名以上 1社 前回+1社
■データについての注釈
・「役員」に監査役は含む、顧問、執行役員は含めなかった。
・ラジオ・テレビ兼営社 31 社。赤字で表示。
6. 日本民間放送連盟の女性役員割合
民放連役員割合は6.7%(45名中女性役員3名)。
2024年6月更新 2年任期。
「民放連・緊急人権アクション」を発表
2025年5月 22 日に、ジェンダー平等推進のプロジェクトが発足すると発表があった。民放労連は以前より、民放連にジェンダー関連のプロジェクトを作って対策を講じることを提言していた。
民放連は発表の中で、「民放業界における男性優位の構造を改革するための提言を行うことを目的とする。プロジェクトの委員構成は、ジェンダーバランスに配慮するとともに、 テレビキー局や準キー局だけではなく、ローカル局、ラジオ局からの参加を得て、多様性を重視したものとし、外部専門家の助言を得て提言をとりまとめる」としている。
お問い合わせ 民放労連
info@minpororen.jp 03-6659-9241
