人々を楽しませるはずのテレビ番組で、人権が損なわれるようなことは、決してあってはならない。
ローカルテレビ局が制作したレギュラー放送のバラエティ番組で進行役を務めたフリーランスのアナウンサーが、レギュラー出演していた有名タレントらからの性的な言動、そしてその様子を面白おかしく編集したものが放送され続けたため、心身に不調をきたして番組を降板した。フリーアナウンサーは、仕事を失うおそれがあることから、番組内では性的言動をかわすようにして、出演業務を全うすべく、視聴者にはそれとわからないように、気丈にふるまっていた。
アナウンサーは2022年2月に「放送倫理・番組向上機構(BPO)」の放送人権委員会に人権侵害救済を申し立てたが、いやがっていたとは気がつかなかった、などという放送局側の抗弁により「人権侵害があったとは認められない」および「放送倫理上の問題があるとまでは言えない」と放送人権委員会は決定した。アナウンサーは放送スタッフユニオンに加入して、2024年7月にテレビ局と団体交渉を行ってセクシュアルハラスメントの調査と謝罪を求めたが、テレビ局は改めて調査を行うことはなく、セクハラの事実を認めようとしなかった。
フリーアナウンサーは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状を含む重いうつ病と診断され、治療に専念しているため定職に就くことができない。今でもフラッシュバックに悩まされることもあり、将来の生活のめども立たない状態に置かれている。それでも、自らの尊厳の回復と業界の因習が改善され同じように苦しむ人がこれ以上増えないことを願い、2025年6月、テレビ局を相手に損害賠償を求める裁判を起こした。
意に反した性的なからかいは「性暴力」に相当し、尊厳を傷つける人権侵害に他ならない。私たちは、裁判闘争に立ち上がったアナウンサーの勇気に、心から敬意を表する。アナウンサーのたたかいに賛同する有識者の皆さんなどにより、「原告を支える会(仮称)」の立ち上げも進められている。
私たちは、匿名でたたかうアナウンサーを物心両面で支援するとともに、番組制作現場から性暴力の危険を根絶し、安心して安全に働ける労働環境を確立するように、力を合わせて奮闘していく決意を、ここに表明する。
2025年8月14日
日本民間放送労働組合連合会 第141回定期大会