自民党・情報通信戦略調査会での議論に関する民放労連声明

2022年3月11日
日本民間放送労働組合連合会
中央執行委員長代行 小寺 健一

 自民党の情報通信戦略調査会は3月9日、民放連とNHKの専務理事の出席を求め、放送倫理・番組向上機構(BPO)やテレビ各局の番組審議会の活動状況について質疑を行った、と民放のニュースが報じました。「BPOや番組審議会が本当に機能しているのか審議したい」という趣旨で、出席した議員からは「テレビ局がネットだけに流す番組もBPOの対象になるのか」「不祥事を起こした政治家が不快な表情をする映像が流れていることに対しBPOは注意しないのか」「BPO委員の人選に国会が関われないか提起したい」といった質問や見解が出されたそうです。

 BPOは、NHKと民放連が共同で2003年に設立した第三者機関です。その委員の人選は、放送局の役職員以外で構成された評議員会によって選任されるなど、放送界からは自立した運営が行われるような工夫がなされています。放送番組をめぐる問題について、BPOでは専門家らが真摯に議論を重ね、多数の意見を社会に公表して放送局に改善を促してきたほか、各地で番組制作者や視聴者を対象にしたセミナー等を開催して、番組の質の向上や放送倫理の確立に大きな努力を払ってきました。
 これらの活動は、権力の介入を排して放送の自律をはかり、視聴者との関係を通じて放送番組の向上をめざすものです。このような存在は世界でも類例がなく、言論・表現の自由を保障する日本国憲法や放送番組編集の自由を保障する放送法の精神を体現するものとして、人々の間で定着しています。

 自民党内では安倍政権以降、BPOの法制化・権限強化や委員選出への国会関与を求める意見を強めています。しかし、今回明らかになった議論では、政治家の映像の使用に関わる意見など、自らの都合のいいように放送番組を左右しようという稚拙な発想もうかがえます。自民党議員はむしろ、第三条「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」と明記されている放送法について、一から学びなおすべきでしょう。ましてや「BPOの人選に国会が関わる」ようなことは、前述の「権力の介入を排して放送の自律をはかる」BPO設立の理念に反するもので、認めるわけにはいきません。

 ロシアが突然ウクライナに侵略戦争をしかけ、国際的に緊迫した情勢の下で、虚実入り乱れた情報が錯綜しています。このように人々の情報環境にも大きな影響が及んでいる状況で、私たち民主主義社会の基盤となる言論・表現の自由を脅かすような論議が政権与党内で行われていることに対して、私たちは放送で働く者として、強く抗議します。

 この問題に関するメディアの報道が乏しいことも懸念されます。言論・表現の自由、放送の自由をめぐる重大な問題について、もっと考える機会と材料を提供してほしいと思います。そして、放送の自律・メディアの独立を確保して、視聴者の皆さんとともに、よりよい市民社会を築き上げていきたいと考えます。

以 上