総務省に「要請書」提出 2016年2月16日

総務大臣 高市 早苗 殿

2016年2月16日

 

日本民間放送労働組合連合会

中央執行委員長 赤塚オホロ

要 請 書

日頃の所管行政全般へのご努力に対し、敬意を表します。

高市早苗総務相は衆院予算委員会で、政治的公平が疑われる放送が行われたと判断した場合、その放送局に対して「放送法の規定を順守しない場合は行政指導を行う場合もある」としたうえで「行政指導しても全く改善されず、公共の電波を使って繰り返される場合、それに対して何の対応もしないと約束するわけにいかない」などと述べ、放送法4条違反を理由に電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性に繰り返し言及しました。大多数の研究者・専門家は「番組内容に関する規律は放送事業者の自律に基づくべきで、番組編集準則違反を理由に電波法の無線局の運用停止や放送法の業務停止などの行政処分を行うことは憲法上許されない」との意見ですが、電波法の停波規定まで持ち出して放送番組の内容に政府が介入しようとする大臣の発言は、放送局に対する恫喝に他ならず、憲法が保障する表現の自由、放送法が保障する番組編集の自由に照らして明らかな法解釈の誤りです。私たちは大臣発言の速やかな撤回を求めます。

昨年来、自民党による放送局幹部を呼びつけての事情聴取など、政権政党による放送への介入と言わざるを得ない事態も続発しています。これは放送法第3条「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」に明確に違反する行為であり、貴省としてもこうした行為には厳重な対応が必要だと考えます。また、NHK番組の「やらせ」疑惑を理由とした貴省による行政指導も行われています。放送局への政府の許認可権限を背景に行われるこうした行為は番組制作への萎縮効果を招き、放送の自律を揺るがせる重大な問題だと考えます。

私たちは、こうした事態は日本における「放送の自立・自律」が真の意味で確立していないことの表れだと考えます。この機会に、独立行政機関の設置を含む放送行政・放送免許制度の根幹からの見直しを訴えます。

昨年設置された貴省の「放送を巡る諸課題に関する検討会」では、インターネット時代の地上波放送局の「生き残り戦略」をめぐる議論が行われているとのことですが、改正放送法により「放送番組の同一化による番組制作費の削減」など放送局の事業再編を促すような環境がすでに整備されています。このような規制緩和はローカル放送局の番組制作機能を縮小させることにつながりかねず、地域における放送局の存在意義を大きく損なう恐れが強まることを意味します。すでに「認定放送持株会社制度」の導入など、ただでさえ東京キイ局への一極集中がこれまで以上に進行させる制度づくりがおこなわれている中で、地域における放送局の存在意義が損なわれることになれば、かえって民放系列ネットワーク全体の総合力を低下させ、放送の社会的使命を十分果たせなくなる恐れもあると、私たちは憂慮します。

安倍内閣は「憲法改正」について今国会でも強い意欲を見せていますが、改憲手続法(憲法改正国民投票法)は、国会議員が構成する「広報協議会」が政党による有料・無料の意見広告を取り仕切ること、政党の意見は「そのまま放送しなければならない」としていること、投票期日前14日間は有料意見広告を禁止していることなど、放送における表現の自由の観点からみて極めて重大な問題が十分審議されないまま、2007年に成立した経緯があります。こうした問題点を慎重に再検討することなく、憲法改正の具体的な手続きに入ることは許されません。

また、多くの市民や専門家、さらに国際団体なども強い懸念・反対を表明した特定秘密保護法が全面施行されています。膨大な行政情報を、客観的なチェックもないままに事実上永久に「秘密」として指定し、秘密を漏えいした者には厳罰を科すもので、報道関係者をはじめ秘密にアプローチしようとする者も処罰の対象としていることは表現・報道の自由に実質的な制限を加えるものです。報道機関で働く私たちは、同法の停止・法律の廃止を強く求めています。

貴省は「4K・8K」テレビを「次世代の高画質放送」と位置付けて、産業競争力向上の観点から積極的に推進する姿勢です。ようやくデジタル放送への切り替えが完了したという時期に、また次の新技術で家電製品の需要を喚起しようとしても、視聴者の理解は得られないと考えます。衛星放送などで4K・8K放送が本格的に開始されようとしていますが、私たちは4K・8Kについて視聴者に新たな負担増を課すような過剰な推進策を取らないことを求めます。

放送番組の制作現場では、極めて劣悪な労働条件で働かざるをえない労働者が多数存在している状態が、いっこうに改善されていません。それどころか、この間、放送局が推し進めてきた経費削減策が現場の労働者をいっそう疲弊させています。貴省は2009年に「放送コンテンツの製作取引適正化ガイドライン」を公表しましたが、このガイドラインが放送現場の労働環境改善に十分な効果をあげているとは到底言えないことは、貴省自身が行っているフォローアップ調査からも明らかです。大きな社会問題となった違法派遣や偽装請負を放送現場から根絶するためにも、ガイドラインの実効性を確保する具体的かつ追加的なフォローアップが必要だと考えます。その上で、公正取引委員会や厚生労働省など関係省庁とも連係され、放送局とプロダクションとの取引適正化や放送現場の労働環境を改善する施策を強化されるよう要請します。

ラジオは、震災に際してはきめ細かな情報を聴取者に提供して、その存在価値が見直されました。しかし、各地のラジオ局は経営環境の厳しさから存亡の危機に立たされていると言っても過言ではありません。難聴対策としてのAMラジオのFM補完も始まりましたが、聴取者の利益を念頭に、単なる経営効率化に留まらない、ラジオの媒体価値向上や経営の安定につながる行政的施策を早急に検討するよう、要請します。

 

貴省におかれましては、放送が国民生活や民主主義の発展に不可欠な存在であるという認識の下、以下の要請事項を真摯に受け止められ、今後の放送行政に反映されるよう切に要望する次第です。

 

要請事項

1.番組の「政治的公平」を理由として、放送局の停波にまで言及した大臣発言を速やかに撤回する こと。

1.放送の独立行政機関の設置をはじめとする放送制度・放送行政の抜本的見直しを検討すること。

1.放送局の番組制作力の低下につながるような放送局の事業再編を推進しないこと。

1.番組内容の問題を理由とした「厳重注意」などの行政指導は、放送局に萎縮効果をもたらし、表現の 自由に深刻な影響を与えることから、行わないこと。

1.「改憲手続法」における放送メディアの取り扱いについて、憲法・放送法が保障する表現の自由・ 放送の自由の観点から慎重に見直し、放送の公平・公正が担保される措置を具体的に検討すること。 その際、放送事業者や放送労働者の意見を積極的に聴取すること。

1.4K・8K放送の推進については、国民的合意を図りながら慎重に進めること。

1.「放送コンテンツの製作取引適正化ガイドライン」の遵守状況を定期的に点検・調査してその結果 を公表し、実効をあげるための具体的かつ追加的なフォローアップを早急に実施すること。放送局 と番組制作会社との取引の問題について、民放労連や関係する労働組合との意見交換の機会を設け ること。

1.既存ラジオ媒体の経営改善につながる媒体価値向上や経営安定のための施策を検討・実施すること。

 

以 上