「事業主が職場における優越的な関係を背景とした⾔動に起因する問題に関して雇⽤管理上講ずべき 措置等についての指針(案)」に係るパブリックコメント(2019年12月20日)

 全国のテレビ・ラジオ局や放送関連で働く労働者で組織する⽇本⺠間放送労働組合連合会(⺠放労連)は、厚労省の「事業主が職場における優越的な関係を背景とした⾔動に起因する問題に関して 雇⽤管理上講ずべき措置等についての指針(案)」(以下「指針案」)に対し、以下のように意⾒ を述べる。
 指針案はまず、パワハラについて「職場において⾏われる1優越的な関係を背景とした⾔動であって、2業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、3労働者の就業環境が害されるもの」と定義されているが、これでは実態を捉えきれない。パワハラは職場に限らず、終業後の居酒屋や宿泊先などでも多発している。また「業務上必要かつ相当な範囲」というあいまいな規定が、かえってパワハラを否定する理由として利⽤されかねない。
 そして、パワハラに「該当する例」が例⽰されているが、具体的な事例が乏しく、指針案として極めて不⼗分である。「⾝体的攻撃」には「机を叩く」などの間接的な暴⼒も含まれるべきであり、また⾦銭⽀払いなどをめぐる「経済的な嫌がらせ」も該当例に加えるべきである。また、「パワハラに該当しない例」は、加害者側や事業主に「⾔い訳」を⽤意することにもなるため、全⾯的な削除を求める。
 パワハラ防⽌の措置義務としては、すべての労働者を対象とした最低年⼀回の研修が必要で、その研修内容も、どのような⾏為がパワハラに該当し、懲戒処分の対象となるのかについて具体的に⽰すべきである。就業規則でパワハラ⾏為を懲戒処分の対象とすることや、事業主はパワハラ防⽌規定の職場への徹底を求めることも指針案に明記すべきである。そして、相談者の⽴場に⽴って有効に機能する相談窓⼝の設置、相談者の秘密厳守や相談したことによる不利益取り扱いの禁⽌なども明記すべきである。
 また、さまざまな労働者が発注元や取引先などの第三者からハラスメントを受ける事例が多数報告されているが、指針案では、第三者からのハラスメントに関する事業者の取り組みは「望ましい措置」にとどまっているのは極めて問題である。雇⽤関係になくても業務上の「発注者」という優越的関係を背景としたハラスメントは番組制作や放送の営業職などでも報告されており、こうしたハラスメントの防⽌には、発注者企業が雇⽤管理上の配慮または措置を求める「義務」を指針に明記する必要がある。
 とくに、フリーランスで働く者には、企業が社内向けに設置した相談窓⼝は利⽤できず、労働局などの⾏政の窓⼝も事実上使えない状況で、現状では相談先が⾒当たらない。また、フリーランスについても、ハラスメントを相談したことによる「不利益取り扱いの禁⽌」なども「義務」として指針に明記されない限り、⽴場の弱いフリーランスは安⼼して相談することもできない。
 このほか、性的指向・性⾃認に関するハラスメントは「SOGI(Sexual Orientation and Gender Identity)ハラ」と呼称され、性的マイノリティの労働者の労働環境を悪化させるうえ、深刻な⼈権侵害を引き起こすものと⾔えるが、ハラスメント防⽌の法整備の中では直接的な規制の対象となっていない。
しかし、法改正を審議した衆議院・参議院の附帯決議でも⾔及されていることから、指針案にSOGIハラ防⽌についても具体的な該当例や措置義務について盛り込むべきである。
 指針案は全体として、パワハラの加害者側や事業主を免罪するためのような⾊合いが強く、被害者保護という本来の趣旨に⽴ち返るべきである。ハラスメントに際しては、被害者側に可能な限り寄り添い、被害者の意向に沿った解決がはかられるよう、指針案は全⾯的に⾒直される必要がある。

以 上