現行の地上デジタル放送計画中止を求める特別方針

2003年1月26日採択
日本民間放送労働組合連合会

1.地上デジタルテレビ放送計画に対する要求

 1.現行の地上デジタル放送計画を中止すること。
 2.地上アナログ放送の2011年終了計画を撤回すること。

要求の理由

私たちは、地上放送デジタル化について、放送局やプロダクションが番組制作部門で進めているデジタル化を否定するものではない。しかし、その伝送路におけるデジタル化計画は、視聴者・国民にとって多大な負担を強いるなど大きな問題がある。このことから私たちは、放送送信のキャリア部分のデジタル化について反対し、2002年4月に行った「地上デジタル放送計画の凍結提言」から一歩踏み込んで、現行の地上デジタル放送計画の中止を要求する。要求は、次の10項目の理由による。

1 破綻した地上デジタルテレビ放送計画

総務省が2002年9月27日に制定した地上デジタルテレビ放送の新免許方針では、地上デジタル放送を今年2003年12月から東京、大阪、名古屋の三大広域圏で、2006年にその他の地区で開始する。しかし、この計画は開始当初から大きな問題を含んでいる。

受信障害対策である周波数変更対策やブースター障害対策などが進んでいないため、三大広域圏で「小電力」からスタートし、受信対策に合わせて出力を増加させるという、「放送開始ありき」の計画に変更された。その他のローカル地区については、2000年に示したチャンネルプランを削除して、アナアナ変更の開始を2005年にし、終了も2009年に延期している。

地上デジタルテレビ放送計画は、開始から大きな狂いが生じている。地上デジタルテレビ放送の開始は、当初計画に従って周波数変更対策やブースター障害対策など電波障害対策が完了した後にすべきである。受信障害対策と地上デジタル放送開始を同時に行うことが放送デジタル化計画を混乱させている。

この地上デジタルテレビ放送免許方針は、既存の放送事業者に既得権益を与える一方で、杜撰な地上デジタル放送計画をゴリ押しするものであり、地上デジタルテレビ放送計画をさらに迷走させている。

このように、放送開始前から多くの問題を露呈している地上デジタル放送計画は、すでに破綻したものとしか言いようがなく、計画の中止は当然である。

2 アナログ放送停止は放送文化の破棄

日本で地上テレビ放送が始まって、今年で50年を迎える。地上テレビ放送は総合編成放送として国民生活に欠かせないものとなり、テレビ台数も1億台になっている。民放テレビも無料広告の総合編成放送として発展し、広告媒体としての価値も高めてきている。

しかし、現在の地上デジタル放送計画は、2011年で地上アナログ放送を停止し、これまでの放送設備や放送番組など視聴者・国民のための放送体制を打ち捨てることになる。そのうえ、視聴者・国民にとっては受信機・録画装置などで新たな負担を強いられることになる。地上アナログテレビ放送の終了条件は、地上デジタル放送が現行のアナログ放送エリアをカバーし、かつ地上デジタルテレビ受信機が受信世帯のすべてに行き渡っていることとすべきである。

拙速で杜撰な国民不在の地上デジタル放送計画の強行は、日本の放送文化を発展させるうえで大きな妨げとなり視聴者・国民に不利益をもたらすものである。

3 デザインがない電波の有効活用

総務省と放送事業者が地上テレビ放送のデジタル化にあげている理由に、電波の有効利用がある。確かに日本の電波事情は逼迫しており、電波は国民共有の、限られた貴重な資源である。このなかで、地上テレビ放送がVHFとUHFのチャンネルを使用しているが、これはこれまでの総務省(旧郵政省)が、「放送普及計画」のもとで行ったチャンネルプラン計画によるものであり、政府の多チャンネル政策の結果である。現在のV・U波のチャンネルを整備するのにデジタル化でなければならない理由はない。また、地上デジタル放送はHD放送に固執しなければ「3メガ帯域」でも可能であり、「6メガ帯域」を使用する必然性もない。

さらに、地上テレビ放送をデジタル化することによって空くVHFの利用計画はまったく明確になっておらず、国民共有のものである電波資源の有効利用についてデザインが描けていない。

4 世界では地上デジタル放送の破綻も

総務省と放送事業者は、地上デジタルテレビ放送は「世界のすう勢」であると強調している。確かに、欧米やアジアの各国は、テレビ放送のデジタル化を進めているが、アメリカでは、デジタルテレビの普及世帯は1%にしかなっていない。ヨーロッパでも、イギリス、スペインの地上デジタル放送局が経営破綻に陥るなど、デジタルテレビ放送の普及は進んでいないのが実情であり、「世界のすう勢」はデジタル放送に対して慎重姿勢となっている。

   いま求められているのは、先行した技術論から視聴者・国民のためのソフト論に重点を移すことであり、デジタル放送でどのような放送をしていくのかを検討することである。

5 視聴者への説明責任を果さず

総務省は地上デジタルテレビ放送の実施にあたって、「高画質」「双方向」「データ放送」「移動体受信」をその特性としてあげている。しかし、これらは、視聴者・国民の要求に基づくものではない。そのことは、「高画質」「双方向」「データ放送」を特徴とするBSデジタル放送の普及が進んでいないことや、アナログ放送で実現している「双方向」「データ放送」受信機が普及していないことからも明らかである。

また、現在想定されている1セグメントを使った携帯端末向け『低画質』放送の実施のために、アナログ放送を投げ打つ理由は全く見出せない。

NHKの調査では、地上デジタル放送が「大体どういうものか知っている」は9%にすぎず、61%が「聞いたことがない」と回答している。国民の多くが地上デジタル放送を認識していないにもかかわらず、総務省及び放送事業者はバラ色の「特性」のみをあげ、地上デジタル放送の必要性について視聴者・国民への説明責任を果していない。視聴者・国民不在のまま一方的に地上デジタル放送計画を進めるのは重大である。

6 その場しのぎの電波利用料の充当

地上デジタルテレビ放送を進めるための周波数変更対策費は、当初の727億円から2.5倍の1800億円に膨れ上がり、電波利用料を財源とする国費投入が問題になっている。

総務省は、周波数変更対策費用の1800億円の財源を電波利用料で充当する理由として、「デジタル放送への完全移行によって新たな空周波数が生まれ、その受益は全無線局に及ぶので全無線局が均等に負担する」とし、放送事業者に「負担が小さすぎる」として「追加的負担」を求めている。この「追加的負担」はデジタルへの完全移行(アナログ停波)までの時限措置とし、追加による放送事業者の年間負担総額は35億円となっている。

総務省は電波法改正法案を今年の通常国会に提出するが、この「時限措置の追加負担」は、周波数変更対策費を捻出するためのその場しのぎの財源確保の方策であり、携帯電話使用のために電波利用料を支払っている多くの国民の理解は得られない。

7 テレビ媒体価値の低下も

民放連研究所が報告したデジタルテレビの普及予測によれば、「全国で普及率が85%に達するのは最速で2015年」であり、「2011年アナログ中止は不可能」、「サイマル放送期間は少なくとも9年以上かかる」となっている。

デジタルテレビ受信機は、周波数変更対策の遅れや限定された放送エリア、受信機の高価格問題などにより普及見通しは立たない状態にある。アナログ放送のサイマル放送は2011年後も長期にわたって続くことになり、放送事業者は多額な地上デジタル放送設備資金をつぎ込むことを余儀なくされる。また、ハイビジョン番組制作費の高騰も大きな負担になる。

これらの経費負担は、番組制作費のいっそうの削減につながり、番組の質の低下と視聴者・国民へのサービスを低下させることになる。その結果、テレビの媒体価値の引き下げが起こり、広告媒体価値の低下も招いて放送収入の低下をきたすことにもなる。放送局のなかには、経営難による合併・統合で地域メディアとしての放送機能が崩壊する恐れもある。テレビ媒体価値の向上の観点からも、現在の地上デジタル放送計画は問題がある。

8 「経済波及効果」は新たな視聴者負担に

総務省が杜撰なデジタルテレビ放送計画を拙速に押し進める背景に、テレビ放送のデジタル化によるテレビの買い替え需要を期待する政府と電機業界の意図がある。これまでテレビ買い替えで40兆円、デジタル放送全体が及ぼす「経済波及効果」は120兆円などの巨額な数字がバラ撒かれている。しかし、これらの数字は、電機メーカーなどから出た思惑などが先行して作られたもので、結局は視聴者・国民に大きな負担を強いるものになっている。

日本にある1億台のアナログテレビを一斉にデジタルテレビに買い替えてアナログテレビを廃棄した場合に、産業廃棄物の処理が社会問題化する可能性もあり、処理費用の負担も視聴者・国民に回って来ることになる。

9 アナログ・デジタルは視聴者の選択に

デジタルテレビ放送は、すでにBS・CS放送で行われている。視聴者は、高画質のハイビジョン放送や双方向放送は、BS・CS放送を通して受けることができる。「16対9」のデジタルテレビ放送をすべて一律に視聴者・国民に押し付けるのではなく、デジタルとアナログ放送を棲み分けて、デジタル・アナログ放送のいずれにするのかは、視聴者・国民の選択に任せるべきである。


10 第二の「諫早湾干拓事業」にするな

   以上述べたように、現在の地上デジタル放送計画に基づく放送開始の強行は、「国策」と称した「インフラ事業」でしかなく、視聴者・国民の財産である放送文化を打ち捨てて、電波資源を浪費するばかりか、視聴者・国民に大きな負担を強いるものである。

     私たちは、「諫早湾干拓事業」を教訓として、放送番組の改善を実現し視聴者・国民の利益を守るために、地上デジタル放送計画による放送開始の中止とアナログ放送2011年停止の撤回を要求するものである。

3.当面のとりくみ

1、すべての組合が統一スト権を提案し、確立をはかる。

2、計画中止のため、街頭ビラまき、個人署名にとりくみ運動を広げる。

3、要求に基づいて、関係省庁、事業団体に申し入れを行う。

4、国会議員へのはたらきかけを強めるとともに、国会内(院内)で集会を開き、地上デジタル計画の問題点を内外に明らかにする。

5、春闘前段で、民放労連の集会を開き、「放送あり方を問う運動」の進め方について、討論、情報交換を行う。

6、地連ごとに地域視聴者懇談会を開く。

                                 以 上