地上デジタル放送計画の凍結を求める
民放労連の緊急提言

2002年4月10日
日本民間放送労働組合連合会
中央執行委員会

1.地上デジタル放送の2003年放送開始計画を凍結する。
2.地上アナログ放送の2011年終了計画を撤回する。
3.すでに決定した「アナログ周波数変更対策費用」の727億円の国費投入
 計画を凍結する。
4.地上デジタル放送による電波障害の問題点を明らかにするため、総務省
 及び放送事業者は「電波障害アセスメント」を早急に実施し、具体的な障
 害対策とその費用について国民・視聴者との合意形成をはかる。
5.現在の地上デジタル放送計画を白紙に戻して、国民・視聴者の利益を第
 一義に考えた計画を策定し、デジタル・デバイド(デジタル化によって生
 ずる情報格差)が生じないよう十分な配慮をおこなう。

2.今なぜ、民放労連は緊急に提言するのか

昨年11月20日、民放、NHK、総務省などで構成する「全国地上デジタル放送推進協議会」はアナログ周波数変更対策(「アナアナ変更対策」)を大幅に見直す「地上デジタル放送の進め方について」を発表した。発表では、アナアナ変更対策に関して、対策局所数は470局所増えて888局所、影響世帯数も190万世帯増えて436万世帯になり、対策費用は明らかにされていないが、852億円から2000億円以上に膨れ上がったといわれている。このことにより、地上デジタル放送計画は抜本的な見直しを迫られることになった。

 ところが総務省は、従来の計画にあくまでも固執し、2003年デジタル放送開始、2011年アナログ放送打ち切りというスケジュールを見直す姿勢を示していない。このままでは地上デジタル放送計画は、いったん決めた「国策」は変えられないとして、次々と問題点が浮かび上がってきたにもかかわらず、巨額の国費を投入して突き進んだ「諫早湾干拓事業」の二の舞ともなりかねない。

 総務省は、これまで地上デジタル放送について、欧米のデジタル放送の事例を挙げて「デジタル化は世界の趨勢」として、高画質を基軸とする地上デジタル放送計画を推し進めてきた。政府は昨年6月8日、アナアナ変更対策費用に電波利用料を充当し2011年に現行のアナログテレビ放送を打ち切るという電波法改正案を、国民・視聴者にほとんど周知しないまま成立させた。

 欧米の状況をみれば、アメリカでは1998年11月にハイビジョンによる地上デジタル放送を開始したが、デジタル受信機の普及はわずか80万台、世帯普及率は1%未満(2001年現在)にとどまっている。イギリスでは、高画質ではなく多チャンネル・双方向サービスをとり、有料放送を中心に地上デジタル放送を進めているが、地上デジタルテレビ局のITVデジタルが経営破綻に陥るなど、次第にその深刻な状況が明らかになりつつある。

 地上デジタル放送について総務省の拙速な計画の見直しが強く求められているいま、国民の利益を最優先にした将来の地上デジタル放送のグランドデザインを確立することこそが急務である。このため、政府・総務省は現在の地上デジタル放送計画を凍結して根幹から改めて検討をし直し、新たな計画について国民・視聴者の意見を求めながら、広く論議をすすめて国民的合意を形成することが求められている。

 以上の立場に立って、民放労連は「地上デジタル放送計画の凍結を求める緊急提言」を行うものである。

 民放労連が、今この緊急提言を提起する理由は以下のとおりである。

 第一に、地上デジタル放送は、国民の側から出た要求ではない。地上デジタル放送について、政府の基本方針が「高画質」である限り、国民・視聴者は高画質・高機能受信機を購入するために、新たに高額な負担を強いられることになる。しかし、現状の地上デジタル放送計画は国民・視聴者にほとんど知らされないまま進められており、国民不在の計画となっている。このような拙速なデジタル化の強行は、デジタル・デバイドの発生を不可避とし、放送受信の機会均等、平等性の確保を妨げることとなる。
 また総務省は、帯域免許(6MHz)によるデジタル放送で、HD、双方向、SD3チャンネル、移動受信、データ放送などが可能になるとしているが、これらのサービスモデルも今のところまったく確立していない。

 第二に、アナログ周波数変更対策について、ケーブル対策、区域外受信対策を含めて解決の見通しが立っていない。アナログ周波数変更対策の見直しの一つとして一部地域でのSTB(セットトップボックス)の配布が検討されているが、これでは他の地域の視聴者との公平をあまりにも欠き、放送受信の平等を損なうことになる。
 地上デジタル放送によるブースター障害など電波障害対策などについても未解決のままであり、拙速な計画の強行は、多大な電波障害を引き起こすことになる。地上デジタル開始当初は当面、微弱電波による実験放送にとどめる計画にすべきである。

 第三に、2011年のアナログ放送打ち切りは、国民の生活に大きな混乱を招く。1億台のアナログテレビ受信機を2011年までにすべてデジタルに置き換えることなど、およそ不可能と言わなければならない。
 終了時期については、デジタル受信エリアが現在のアナログ放送受信エリアをカバーし、かつデジタル放送受信機が全国にあまねく普及していることを必須条件として再検討を行うべきである。

 第四に、杜撰な地上デジタル放送計画のもとで、このまま際限なく国費投入を行うことは国民の理解を得られない。2000億円以上とされる対策費について、その財源を国費(電波利用料)に求めようとしているが、国費投入についての国民に対する説明責任がまったく果たされていない。また最終的に投下すべき費用の総額も、現状ではあまりにも不透明である。
 アナアナ変更対策計画を見直さなければならない時点で、すでに予算化している国費投入を凍結することは当然であり、今後の国費投入にあたっては、計画をすべて国民に開示したうえで決定されるべきである。

第五に、現行の地上デジタル放送計画では、短期間に巨額の設備投資が必要とされるが、このことは放送局やプロダクション経営の財務を悪化させ、放送番組制作体制と地域放送体制の弱体化が進む。この結果、国民・視聴者に対しての放送サービスの質を低下させ、そのしわ寄せは国民・視聴者に及ぶことになる。

 以上に明らかにしたとおり、現行のまま地上デジタル放送計画を推し進めることは、放送の将来に大きな禍根を残すことは疑いようがない。今こそ逡巡することなく、勇気をもって計画の凍結を決断することを、ここに広く提言するものである。

以  上