民放労連と映演共闘が民放連に申し入れ 2018年3月9日

2018年3月8日

一般社団法人 日本民間放送連盟

会長 井上 弘 殿

日本民間放送労働組合連合会

中央執行委員長 赤塚オホロ

 

申し入れ書

 

私たち民放労連は1月末、第126回臨時大会を開催し「いのちと健康、雇用と生活を守る18春闘!」をスローガンに、2018年春闘に臨むことを決定しました。加盟各組合では2月28日を中心に民放各社に対して要求を提出し、今春闘を開始しました。

 

今春闘をめぐっては、安倍首相は政労使会議の場で5年連続となる賃上げ要請を行い、「3%」という具体的な数値目標まで示しています。安倍首相がいくら「名目賃金は上昇している」と宣伝しても、実質賃金が低下している状況では消費拡大につながらず、さまざまな企業優遇施策で生み出された利益のほとんどは内部留保に回されているという現状に対する苛立ちが、「3%」という数値になったのだと考えます。

日本経済の回復のためには個人消費の拡大が不可欠であり、個人消費を活性化させるためには、物価や社会保障費の上昇を上回る「大幅な賃上げしかない」という認識は、政府はもとより、いまや社会一般に広がっています。

とりわけ、貯蓄に回りやすいと指摘される一時金よりも、ベースアップによる月例賃金の引き上げこそが、経済の活性化につながりやすいことは多くの経済学者や経済アナリストも主張しているところです。

 

2016年度の民放193社の売り上げは2兆3637億円となり、経常利益は7年ぶりに減益となりましたがそれでも1825億円を確保していますし、内部留保額も過去最高に迫るほど順調に増加しています。また貴連盟の民放連研究所による2017年度の見通しも微減ながらもほぼ前年度並みと推計しており、2018年度については微増の予測としています。

また、先月発表された電通の「日本の広告費」によると、2017年の総広告費は6年連続のプラス成長で、6兆円台に回復した2014年から3年連続での6兆円台となっています。マスコミ4媒体での広告費では、他の媒体が低下しているなか、ラジオ、テレビともに前年並みを維持していることからも、依然として広告主からの期待は大きいものがあると考えます。

貴連盟としても10年後、20年後の放送の未来が光り輝くものとなり、視聴者・リスナー、そして広告主にとって魅力ある媒体として存在していくために、加盟事業社に対して、「人と番組を大切にする」施策の推進を促すよう求めます。

 

今後も引き続き、民間放送各社を束ねる貴連盟と民放労働者を代表する唯一の産別労働組合である民放労連が、意見の相違を率直に認めつつも、これからの放送のあり方について、胸襟を開いて具体的な協議を深めることこそが、民放産業全体の発展のために極めて重要であると考えます。

こうした立場から以下に述べる民放労連の今春闘方針における3つの重点課題を真摯に受け止めていただき、併せて加盟各社に対して労使交渉で「誠意ある対応をとる」ことをご指示いただくよう申し入れます。

 

1.賃金要求「4つの柱」を追求し、すべての労働者の「賃金の底上げ」を実現する

賃金は日々の生活を営む上で必要な生活給であり、月例賃金はもちろん、賃金の後払いである一時金もすべて生活給です。さらに結婚や子育てなど家庭と家族のライフプランに合わせた生活レベルにするためにも、生計費の増加に見合う賃上げは絶対に必要ですしその賃上げ額は、物価などの経済情勢と社会保険制度や税制度、年金制度などの社会情勢を加味する必要があり、定期昇給だけで事足りるものではありません。

私たち民放労連は2018春闘において、ベースアップによる月例賃金の大幅アップ、前半年収の大幅増、初任給のアップ、「企業内最低賃金協定」締結を、賃金要求の四つの柱と位置付けて取り組むことを決定しています。

月例賃金については、物価の上昇や社会保険料の値上げなどによる家計負担を解消するため、昨年に引き続き「誰でも2万円以上」の賃上げを統一要求基準としました。

また「前半年収」については、引き続き民放労連の年収平均がピークだった2001年の水準への回復を長期的には追求しつつ、まずは世界同時不況が発生した2008年以前の半年収に戻すことを今春闘ではめざすことにしています。

「初任給アップ」については、最低賃金保障の底上げにもつながることから、引き続き「25万円以上への引き上げ」を求めることとしました。また初任給のアップは、放送をめざす若者たちが、放送の未来に希望を見出すことに直結するものと考えています。

「企業内最低賃金協定」締結の要求は、放送で働く労働者の「貧困と格差の是正」を求めて、2003年から民放労連の統一要求として掲げてきました。現在では、民放労連に加盟する労働組合がある独立U8局で労働協約が結ばれ、系列局系放送局では北陸放送や北日本放送のほか、ラジオ単営社のラジオ関西を合わせて11組合で締結されています。雇用形態の違いがあっても、放送労働者が仕事に誇りを持ち、生活の安定を図っていくにあたって、労使双方に大きなメリットがあるものと確信しています。そのためにも私たち民放労連の加盟組合は、まずは各社が直接雇用する労働者を対象とする「企業内最低賃金協定」締結とともに、「時給1500円以上、月額25万円以上」を要求し、引き上げを求めていく方針です。

 

2.雇用を破壊する労働法制改悪に反対し、人間らしい働き方を実現する

今次の通常国会で議論されている政府提出の「働き方関連法案」において、「裁量労働制の適用範囲拡大」が削除されました。これは、裁量労働制を「改正」するにあたり厚生労働省から提出されたデータが不適切な内容であり、経営者に都合よく改ざんあるいはねつ造された疑いまで出てきたからに他なりません。しかもこのデータは「高度プロフェッショナル制度」の法案作成にも利用されており、間違ったデータに基づいて作られた法案に正当性がないことは明白です。

放送が未来にわたって、視聴者・リスナーから信頼されるメディアとして発展していくためには、放送で働く労働者の権利と自由が保障され、生活を充実したものにするための雇用の安定と長時間労働が解消されていく必要があります。そのためにも放送産業に蔓延している長時間過重労働を撲滅していくことが求められています。

失った命は二度と戻りませんし、損なった健康は元通りにならないことを念頭に「いのちと健康」の観点から、業務の効率化やノー残業デー、消灯時間を決めるなどの小手先の対応で職場や個人に責任を押し付けるのではなく、人員の手当てや業務量の削減をするなどの抜本的な解決策を求めます。

また社員の長時間労働是正のために、安易に外注や外部委託などで立場の弱いプロダクションや派遣労働者に仕事を付け回すのではなく、すべての労働者が健康に働くことができる労働環境を整備させることが重要です。さらに労働時間が曖昧になりやすく、結果としてサービス残業の温床となる裁量労働制の導入にも反対します。

先にも述べましたが、労働者を労働基準法の枠外に置く「高度プロフェッショナル制度」や、ほとんどの営業職に適用することが可能となる企画業務型裁量労働制の適用範囲拡大、労働者の生活を根底から破壊する「解雇の金銭解決制度」など、労働法制の改悪には反対していきます。

貴連盟は、「極めて公共性が高い」民間放送の事業者の団体として、雇用のありかたを根本から破壊するこれら労働法制の改悪には断固として反対し、放送で働くすべての労働者の生活と雇用の安定、改善につながる真の法改正を求めて、毅然たる姿勢を表明されるよう強く望みます。

また、通算五年以上有期契約で働いた労働者が求めれば無期雇用に転換できることになった労働契約法と、有期の派遣労働者は三年を超えて同じ職場で働くことができなくなった労働者派遣法の適用を控え、立法趣旨を遵守して雇い止めすることがないよう要請します。

人間らしい働き方を実現するために労働者の権利を守り、私たち労働者を犠牲にするような法制度や企業内制度の改悪には毅然とした姿勢でたたかいます。

私たち民放労連では、放送の信頼性を高めるためにも、放送局構内で働くすべての労働者が、安心して働くことができ、安定した生活を営むことができる労働条件への改善こそ、放送が未来にわたって視聴者・リスナーから信頼されるメディアとして発展していくための重要な要素だと考えています。

 

3.平和と言論・表現の自由を守り、職場と生活(くらし)に憲法を活かす

安倍首相と政府は「特定秘密保護法」「安保関連法」「テロ等準備罪(共謀罪)」と矢継ぎ早に数の論理で法案を成立させ、そして大義なき解散総選挙の結果、憲法改正の発議要件である衆参両院での総議員の3分の2を確保した自民党と改憲勢力は、戦争ができる国づくりを着実に進めています。

国際NGO組織の「国境なき記者団」の報道の自由度ランキングでは2011年には11位だった順位が、年々順位を下げて2016年には七二位まで低下し、2017年も回復の兆しはありません。海外から見ても報道に対する政府の圧力強化と、それに伴う報道への信頼の低下を読み取ることができます。

市民のためのジャーナリズムであるとの原点に立ち返り、言論・表現の自由を守り、取材・報道を制限し、市民の知る権利を奪うことにつながる「特定秘密保護法」と、戦争への道を開く「安保法制(戦争法)」、思想信条の自由を奪うことにつながる「テロ等準備罪(共謀罪)」の廃止運動に全力で取り組みます。

過去の戦争に加担せざるを得なかったことへの反省から、戦後のマスコミの原点となった「二度と戦争のためにペンやマイク、カメラをとらない」との決意を、いま一度新たにし、国民の知る権利と報道の自由を守り抜くためにも、貴連盟が指導力を発揮してジャーナリズムの先頭に立たれることを強く期待します。

 

――― 総務省申し入れに関連して ―――――――――――――――

「改正放送法」と「放送コンテンツの製作取引適正化ガイドライン」について

2014年の改正放送法により、放送局の事業再編を推進するような環境が整備されました。これまでの総務省への問い質しでは「事業再編、基盤強化は放送局独自の判断であり、総務省が推し進めるものではない」と述べていますが、このような規制緩和は、とくにローカル放送局の番組制作機能を縮小させることにつながり、地域におけるローカル放送局の存在意義を大きく損なう恐れが強まることを意味します。そのような状況に陥れば、民放系列ネットワーク全体の総合力を低下させ、放送の社会的使命を十分果たせなくなる恐れもあると憂慮しています。

貴連盟としても、地域に密着した多様な放送のあり方を堅持していく立場から、「改正放送法」には、安易に再編を推進することのないよう、毅然として対応されるよう求めます。

さらに「放送コンテンツの製作取引適正化ガイドライン」の遵守状況についても問い質しをおこない、公正取引委員会のフォローアップ調査結果ではガイドライン自体の認知度は高い水準で推移して改善の兆しも見られるものの、依然として調査対象社の約3割(複数該当含む)で事前協議もない優越的地位の濫用が指摘され、なかでも採算確保が困難となる買いたたきが半分を占めています。公正取引委員会は「法律に違反する行為には、厳正に対処していく」としていますし、総務省も「優越的地位の濫用は、総務省としても問題があると考えている。下請法に違反する行為を周知していく」と述べています。

プロダクションが、発注元である放送局に番組制作取引において対等な立場で交渉することはきわめて困難です。このような関係を改善させていくためにも私たち民放労連では、すべての放送労働者の労働組合への加入を働きかけています。同時に貴連盟としても、放送産業の未来のために、すべての放送労働者が人間らしく働き、生活していくことができるよう、放送局が率先してプロダクションや関連会社との公正・公平関係を築くよう指導力を発揮されることを求めます。

 

以上